マイナー名作紹介・「時間封鎖」

 貴方は時間を止められたら何をするか。
 ある人は大好きな女の子を攻略するために力を使うと言った。
 ある人は女の子にありとあらゆるいたずらを尽くすと言った。
 この主人公は女という女を強姦し続けると言う。

・ストーリー概観
 少しの波乱はあるものの平凡な学生生活を過ごしていた主人公に、突然「お前だけの世界をやろう」という声が聞こえる。
 すると、次の瞬間主人公は時間を停止する能力を手に入れていた。
 この能力をマトモに運用すれば、強姦しても捕まりようがない。
 強い強姦欲求の不満足に悩まされ続けていた主人公は、多少の倫理感によるブレーキを感じながらも、自分の性欲を満たすことを選択する。

・抜きゲーとしての時間封鎖について
 まず、抜きゲーとして出来が良い。
 良い。
 最初の後腐れのないレイプも麻耶佳や小山内等知り合いへの関係が破壊されるレイプも良い。
 最高。

 その出来を大幅に増している一因として、プロローグにおいて「平凡な学生生活」がそれなりに丹念に描かれていることは特筆されうる。
 鎖-クサリ-と同じ手法が使われているといえる。*1
 レイプは元来取り返しの付かないものであり、ゆえに魅力があり、何かを取り返しの付かないものにするには積み上げるしかない。
 なるみおかずはそのことを、業界で五指に入るほどにわかっていた。
 この抜きゲーの魅力は、キャラクターの魅力だ。

・神野麻耶佳
 彼女はレイプ物としては珍しい、全力で主人公に抵抗するヒロインである。強姦への対抗として、本気で殺しにかかってくる。
 時間を止められる主人公にバイクで突撃するなど、少し展開に疑問符が浮かぶ場面があるが、時間が停まっているとしか思えない意味不明な現象に混乱し精神的に追い詰められた女子高生なりの、精一杯の殺意である。
 たまらなくエロい。
 主人公は華麗にレイプする。たまらなくエロい。
 優等生であり、運動神経もあり、おそらくクラスのヒロイン的立ち位置の小山内と親友であることから、間違いなくクラスの裏ヒロインである。たまらなくエロい。
 そして最後の最後に堕ちる。その匙加減。
 たまらなくエロい。

・浅河翔太
 常に自分の居場所がないという感覚に苛まれる、無感動で無感情な少年。怠惰で成績不良で出席態度が悪いが、積極的な非行を行うタイプではない。能力も低くない。ただひたすら無気力なだけなのである。
 時間封鎖能力を得ると水を得た魚のように強姦を繰り返す。
 それなりに手の込んだ強姦とそれに反する酔っ払った一人称は圧巻。彼の性格が非常によく描写されている。

・奈瀬優
 奈瀬優は、ヒロインの一人であり、主人公のライバルとして設定された存在である。
 そもそもこの主人公は根が優秀な人間で、時間停止という反則じみた力を得れば、優秀な警官である真堂を含め、誰も太刀打ちできないことは道理だった。
 だから、同じ時間封鎖の力を持つ彼女が作り出された。
 しかし、主人公は負けることを望んではいなかった。
 だから、奈瀬優は歯ごたえがある程度でしかない弱さだった。
 黒髪、寡黙、作法に厳しい茶道の名家、どこかユーザー側にとって、男にとって都合のいい設定ばかりなのは、言動全て、奈瀬優は、主人公の願望を叶えるための道具にすぎないからだ。
 奈瀬優のキャラクター性はすべて、主人公のキャラクター性の補強でしかない。特に素っ裸で男湯に入らせて羞恥責めした上でそのままふたりきりのイチャラブセックスをするというコントみたいな展開とか。

・主人公は救済されるか
 ミッドポイント以降に、時間封鎖の話は、プロローグ以外が全て、主人公が生きている世界とは別の世界において繰り広げられたものだということが判明する。
 かつその世界は、神工的な世界である可能性が高い。
 「お前だけの世界」とは、本当に「オレだけの世界」なのであって、だからこそ時間を止められるし、望めばライバル的黒髪の美少女だって与えられた。
 このゲームはさよならを教えてや書淫やスマガに連なる精神世界系モノだと言っていい。

 最後、主人公は帰還する。元の世界へ。これまでの全ての凌辱劇は、以上二つの設定により、倫理的に何の違反もない。主人公自体にも、あまり罪悪感に囚われる描写はない。
 ふざけた最後だ。しかし、そのレベルが救済という言葉にはふさわしい。

 麻耶佳編のラストで明らかになるのは、麻耶佳は幼いころ、いろんなことに一生懸命になる主人公を好いていたということだ。
 だからこそ、今の無気力な主人公を嫌悪し、憎悪さえする。
 彼女の情は圧倒的で、レイプに活力を見出した主人公に、昔の面影を見て自己嫌悪まで行う。
 そしてその主人公の努力は、いつも見ている幼なじみの女の子に、かっこうをつけるためのものだった。
 つまり、かつて二人は一つの機関だった。本当に、二人は二人を好きだったのだ。
 しかし芽生える強姦欲求。両親の不仲により芽生えた「ここはオレの居場所ではない」という感覚、見知らぬ女との間に醜悪な居場所を作り出す強姦という行為への渇望、主人公のほんとうの居場所だった麻耶佳への強姦。
 なんて美しい強姦。このゲームのこの二人より、美しい強姦は存在しない。それほどまでに完成された悲劇であり世界である。
 バッドエンドでは麻耶佳は主人公を受け入れるし、ハッピーエンドでは麻耶佳はもう一度強姦欲求と戦う際の活力になる。
 麻耶佳は、主人公の本当の居場所だったし、いつでも本当の居場所なのだ。
 たまらなくエロい。
 浅河と麻耶佳の未来は、今やきっと開かれている。

 なぜこの主人公が、わざわざ精神世界というご都合主義まで作られて、救済されなければならなかったか。
 言うまでもなく、この主人公は我々自身であるからだ。
 このゲームは、強姦という共通項を使ってプレイヤーを穿つ、救済譚にほかならない。

・レイプを否定的に描いたことについて
 前作処女∞レイプでは最終的にレイプは大したことではないという描かれ方で決着する。しかし、時間封鎖では、主人公が明確に自分の強姦願望は悪である、追いかける何かがあれば願望で目が眩むことはないはずだ、と一人称で認識する。
 だが、なぜ我々はエロゲーをやっていて、わざわざエロを否定されなければならないのか?
 そここそが時間封鎖の完成度を一段下げている原因と言わざるをえない。
 しかし同時に、そのことがあるからこそ、この物語がくじらっくすの一連の作品群に見られるような、救済寓話として成立していることを認める。
 この主人公は倫理を倫理として受け止める能力(最低限の知能)を持っており、強姦を肯定することができない。
 肯定できないものを肯定することは不可能だ。誰もが超倫理を持てるわけではない。胸を張ってその超倫理を公言できるかといえば、もっと難しい。そして個人レベルでそれをできても、やがて社会がその倫理を潰す。最低限の知能のない主人公を、我々は自分自身であると移入できない。
 やはり俺たちが救済されることはないのかもしれない。
 時間封鎖は限界を超えない。

*1:基本的にサスペンス物は犯人が殺している場面から入ることが多い。だが、鎖はそうはしなかった。そしてもちろん、平凡な日常から始めることもしない。加えて無論、衝撃的ではあるが無意味な開始はなさない