DokiDoki Literature Clubは欠陥品で失敗作

 作品の読解にはメインテーマの読解が必須である。
 作品には多くの場合でテーマが存在する*1。それを読み解くこそ作品を読み解く作業の半分にほかならない。


 なお、物語のメインテーマを読み取る際には、いくつか使える小技がある。


1、主人公サイドの言動を読む

 主人公サイドの人間の言動は作者が伝えたいことである可能性が高い。

 特に、物語の途中ではなく、クライマックスで主人公が迷いを振り切ったあとに放つ言葉は、作者にとって正しい場合が多い。

 彼らは最後に勝利するので必然だ。
 野球ゲームに出てくる悪の博士が「正義の反対は悪ではなく、また別の正義、あるいは寛容」と諭す時、作者は幼稚な正義の脆弱さを指摘している。


2、敵サイドの言動を読む

 敵の言動はのちに主人公によって否定される事が多い。

 インパクト次第では、ネット掲示板やSNSで敵の言動だけ取り上げられることが多くあり、「(敵の名前)の言葉はきっと作者の言いたかったことに違いない」とされることもあるが、それは間違っている場合が多い。

 彼らは最後敗北するので当然だ。
 大魔王バーンが、「力ほど美しい法律はない」と言う時、作者はそうではないと思っている。


3、どういう流れで物語が発生し(つまり解決するべき問題が発生し)、どうなったか(誰が損したか、誰が得したか)を見る

 作品の中で、正しい人間が得をすることが多く、間違った人間は損をすることが多い。


4、作者を観察する

 禁じ手的で俺はあまり好きではないが、作品が生まれた背景や時代を見れば作品のテーマがわかることもある。……正確には、作者が作品に込めようとしたテーマがわかることもある。

 芸術研究はこの手を必須としている。

 なぜ禁じ手的だと考えるかといえば、作品自体のテーマと作者が作品に込めようとしたテーマは全く同じにはなりえないし、同じであってはならないと考えているからだ。

 たとえば俺が、世界の混乱を悲しみ(①作品が生まれた背景や時代)、勧善懲悪の物語を作ったとする(②作者が作品に込めようとしたテーマ)。だが、その作品はいまいち出来が悪く、ツッコミどころが多く、しっかり読めば、悪役が得しただけの作品――つまり、悪を礼賛する内容と読むほうが自然だったとする(③正当な解釈を探し求めたら、その作品のテーマとするのが妥当なテーマ)

 ②と③は矛盾する。作者は勧善懲悪を好むのか、悪が栄える世の中を礼賛しているのか。表裏一体の場合もあるがそれはさておき、②と③が矛盾する時、「その作品自体のテーマ」は③でなければならない。そうでなければ、作品の実在は消え失せて、特定の人間に首輪をつけられたゴミがあるだけだ。


 以上の法則はいつも正しいわけではなく、頑張ったけど報われない(世界を救った勇者は二度と帰ってこなかったとか)、頑張るほど空回りで報われない(鬱系のシナリオとか)作品はざらにある。
 が、エンターテイメントを意識した作品においては以上が通用する場合が多い。


 さて、Monikaで有名なDokiDoki literature clubの話を始める。
 この作品のテーマとして考えられる候補を挙げていこう。

1、Monikaと二人きりの会話の中で、Monikaは繰り返し繰り返し他人を尊重することの大切さを説く。
2、他人を尊重することを忘れ好き放題にしたMonikaは、最後にプレイヤー自身の手で断罪される。
3、Monikaは最後、狂った物語を止めるため物語ごと自殺した。この物語は出来の悪いエロゲーを否定している。
4、Monika、他ヒロイン達とプレイヤーの恋愛は成立しなかった。つまり、画面の向こうの人間との恋愛は成立しない。
5、バグの演出が多用されている。これは、「ゲームは所詮ゲームだ」というテーマを表すメッセージだ。
6、作者はビジュアルノベルを愛好している*2。その一方で、このゲームを使って、作者は現状に異議を唱えた*3

 以上6つあたりを材料と仮定すると、この作品のテーマを類推できる。

1、他人を尊重しよう。
2、エロゲーは出来が悪いとキャラクターの尊厳を侵害する。俺(作者)はそれが我慢ならない。*4
3、現実の問題を解決しよう。ゲームはゲームに過ぎない。

 3については、作者が込めるつもりのなかったテーマである可能性があると思う。
 だが、シナリオの中であれだけ実在性、尊厳性を強調されたMonikaが、ただ消えるしか無いシナリオだったということで、3のメッセージを込めていないという言い訳は通用しない。
 3のテーマを込めるつもりがなかったのなら、公式でMonika after story*5のようなコンテンツを用意すべきだ。そして、その選択肢も取れるようにするべきだった。そうしていないというのは、3と読めるということだ。それを否定されるいわれはない。
 3を否定できる材料としては、作者の反駁は不適だ。材料になり得るのは物語を読む訓練を行っている人間による投票の結果くらいだ。


 ここでお気づきの方も出てくると思う。

 1と3は矛盾する。

 他人を尊重しようというメッセージにも関わらず、Sayori、Natuki、Yuri、Monikaは尊重されない。尊重されず、物語の仕組みにそのまま押しつぶされて死ぬ。トゥルーエンドでもそれは変わらない。むしろトゥルーエンドこそ、Sayoriが力に呑まれなかったにも関わらずの顛末なので、余計に狂っている。

 2がなければ、ゲームのキャラは「他人」ではない、だから尊重する必要はないという言い逃れができた。が、それはもはや通用しない。
 

 この作者は、Monikaが自殺するシナリオについてどう思っているんだろうか。
 異議を唱えた? 全くお笑いだ。箱庭を作ったのはお前だってのに。
 現実にパッチで機能を追加して、作者のchrファイルをdeleteさせろ。


※1
 なお、
 https://jp.ign.com/doki-doki-literature-club/22567/opinion/doki-doki-literature-club
 のような読み方ができる。
 イメージとしては「ゲームはゲームに過ぎない。外に出よう」というより、「この現実もMonikaのいるDokiDoki literature clubと変わらない。だから、Monikaの分まで最善の方法考え続けよう」というような、最大限作者側に立った読み取り方をしている。
 材料不足気味の読みだと思うが*6、ばっちり成立している。
 上に付け加えるなら、3、Monikaは失敗したが、君は現実の問題に対処せよ といったところか。
 DokiDoki literature clubでは無理筋だと思うけどな……。

 で、URL内の論調も含め、仮にSayori達の尊厳の存在をわかっていて、ただそれでも現実の問題と戦うことの難しさを表現するために、シナリオ上では彼女たちが全滅ENDを迎えるしかなかった、というような最大限作者側に立った論調を考えるとする。
 こんなゲームわざわざ作ってんじゃねーよ


     __,.-----.,___
   r'~:::::_,,,_:::::::::::::::ヽ
   |:::r'~  ~"""''-、::|         ┌───────────┐
   |;;| ,へ、  ,.ヘ、.|::|.         | こんな げーむわざわざつくってんじゃねーよ
  r'レ'  .・ .::::::. ・  .'y^i        │            |
  ゝ'、   '、___,'.  ,;'-'         └───────────┘
    '、  ----  .,;'                         、
     ';、     .,;'                    
       ̄ ̄ ̄                  完


※2
 以上の文章は、https://www.nicovideo.jp/watch/sm32854856の視聴以前に書かれたものである。
 この動画では、chrファイル等を解析して、「dokidoki literature clubは次回作に続く壮大な物語のプロローグに過ぎない可能性がある」という考察が繰り広げられている。
 その内容を含んでのブログ記事はこちら→http://kureri.hatenablog.jp/entry/2019/05/05/021832

*1:もちろんテーマが存在しない作品も存在する

*2:インタビュー、あと手紙より

*3:手紙より

*4:フィクションの女の子を都合良く愛することに対するアンチテーゼは、日本の創作物には腐るほどあって(プレイしたことはないけどととのは言うまでもないし)、それを作者が認識せずに「異論を唱えた」と言われても少し悲しいが、それはおいておこう

*5:Monikaに監禁された後の空間でしばらく過ごせる、ファンが作ったMOD

*6:メタフィクショナルである理由が他にないから、これは現実のメタファーなんだ、というのは無理筋だ。気付いていて書いているに違いないけれど……