おすすめなろう小説3選

 金が無い。
 ゆえになろう小説に手を出した。

 なろう小説。世間ではどうしようもないコンテンツということになっている。
 薄ら寒い全く好きになれない主人公に都合のいい展開が連続し、頭空っぽのヒロインが主人公の子を妊娠して、全く面白みのないままストーリーが続き終わるということになっている。読んでいるのは世間の苦しみを何も知らないガキ。
 はっきり正直を言うと、テンプレなろう小説は確かにつまらないが、ジョジョ三部とテンプレなろう小説の何が違うのか俺には理解できない*1。共通点はたくさんあるが、とりあえずどちらもつまらない。あと、なろう小説はいくつかの論拠により、読んでいるのはおっさんという説が濃厚だ。未だネット掲示板を使っているおっさんが異世界チートで夢見るおっさんを叩く地獄。

 もちろんこのブログを読んでいるような層は、なろう小説を馬鹿にすることなどないはずだ。
 エロゲは常にネットにおいて馬鹿馬鹿しいものと馬鹿にされている。*2「まるでエロゲみたいな」「エロゲでもねえぞそんな展開」いつも馬鹿にされている。こともあろうに、エロゲプレイヤーでさえ、「エロゲとは思えない重厚さ」「エロゲとは思えない哲学性」とエロゲを馬鹿にする。
 そんな立場を味わっているエロゲプレイヤーが、なろう小説を馬鹿にすることなどあってはならない。
前提として、全ての芸術は平等なスタートラインに存在することを理解したい。その上でつまらない個別の作品が存在するだけだ。また、つまらないにはつまらないなりの理由がある。理解できないならこのブログから消えてくれ。

 さて、どうでもいい前置きはさておいて、好きな作品を三つ紹介する。


1、理想のヒモ生活

 主人公は普通のサラリーマン。ある日、「お前はこちらの世界の王家の血を引いているから、女王たる私の夫になってくれ」というようなことを言われて異世界に召喚される。
 王様になるのならやらなければならないことがたくさんあるかと思いきや、真逆だった。「どの勢力とも繋がりのない、権力を一切主張しない夫」が政治状況的に必要だから、わざわざ主人公を異世界から呼んでいて、毎日ぐうたらして無能アピールしてくれれば冗談抜きで本当に助かるとのこと。これは美人で最高にタイプなヒロインとのんびりするしかない。
 ところが状況の変化により、否が応でも政治劇に巻き込まれることになり、本人も持ち前の勤勉さによって、男尊女卑社会における女王という歪んだ立場で孤軍奮闘する妻を助けていく政治小説

 とても面白い。
 異世界転移ものにありがちな、現代技術をうまく持っていってなんとかしようとする*3くだりもそれなりに書かれているが、交渉や政治がしっかりとした密度で描写されており、とても読み応えがある。
 絶望的にダサい言葉を吐くが、俺はこの作品で、ひいては「なろう」で、政治とは何か、交渉とは何かを知った。

 難点を言うなら、物語の導入の関係上たった一人しかいないヒロインが、変化球気味で、いまいち趣味に合わないことくらいか。


2、Re:ゼロから始める異世界生活

 主人公は引きこもりの高校生。ある日コンビニを出ると、自分が異世界に転移をしていたことに気づく。そして、その世界のチンピラに絡まれていたところをある美少女に助けられ、その美少女を助けるため行動することに。
 ところが、彼女にはかなり複雑な事情があったようで、主人公は事件の中で謎の殺人鬼にあっさり殺されてしまう。
 直後に目が覚めると、そこにあったのは殺されるよりもちょっと前の時間の同じ異世界。そう、異世界転移した彼に与えられた能力は、死に戻り(ループ)の能力。
 美少女を助けたお礼に連れてこられた洋館での逗留の中、誰が主人公を殺すのか。忘却の魔獣「白鯨」、暗躍する宗教組織「魔女教」とどうやって同時に戦えば良いのか。主人公を死に戻りさせる、精神世界に出没する謎の女はなんなのか。さまざまな謎を解き明かしつつ、引きこもりで痛い無様な主人公が、死の苦痛にもがき苦しみながら成長していく活劇小説。

 説明不要の有名作。
 単純に娯楽作品としてレベルが高い。

 異世界物とループ物をかけ合わせて小説にした結果生まれたのが、絶望的な状況を、主人公がループすることで打破するゲーム的小説。
 どうやって眼の前の状況を、一切特殊能力の使えない主人公が打破するのか(まあ魔法で煙幕は張れるようになるんだけど)、主人公や周囲の親しい人間が繰り返し殺されるシナリオの原因と敵は何なのか、そして絶望的な状況を笑い飛ばして突破したときに起こるカタルシス――この作品は娯楽に満ちている。

 単純に、娯楽作品としてレベルが高いというのはいいことだ。「G線上の魔王」は名作エロゲとして有名だが、はっきり言って同じ作者の「車輪の国、向日葵の少女」のほうが圧倒的に面白い。G線の叙述トリックは完成度がふざけている。回収されたときブチ切れて画面を壊しそうになった。
 それでも繰り広げられる攻防の娯楽性は極めて高いし、それだけでG線上の魔王は車輪の国を超えるエロゲだとネット上の何人かがみなした。

 全く関係ないが、るーすぼーいは「無能なナナ」という漫画の原作をしている。現在連載中だ。この作品、最新刊部分くらいまではどう見てもナナの上司=人類の敵としか見えなかったが、だんだんとそれが薄れてきていて悲しい。

 ともかくRe:ゼロから始める異世界生活は面白い。
 筆者は正直この作品の脇役はあまり魅力的じゃないと思うが、世間では脇役を含めてキャラクターも魅力的ということになっている。
 脇役については置いておいても、オタクコンテンツとして大ブレイクしただけあって、精神年齢14歳児のすーぱーヒーローヒロイン・エミリア、主人公に重すぎる期待をかけてくるヤンデレご奉仕メイド・レム*4、他主要女性陣の魅力はやはり高い。十分だ。
 あとは意外なことに、主人公の女性人気が高い。苦悩する姿が受けたのだろうか。

 特筆すべきは作者が鍵っ子なことだろう。また、言うまでもなくループ物をオタク業界にエンターテイメントとして持ち込んだ先駆けはエロゲ。エロゲが撒き散らしたミームが行き着く10年代最高のエンターテイメントを子供を愛でるように体感する。


3、異世界薬局

 主人公は薬学博士。トラウマによって目覚めた「人を救いたい」という意思に取り憑かれ、働きすぎて過労死したところ、異世界の少年になって生きている自分に気付く。どうやら自分は転生した後、ファンタジー世界の、ファンタジー薬師の家系に生まれた少年になってしまったらしい。
 異世界でも人を救いたいという願いに代わりはない。皇帝、こちらの世界における父親、こちらの世界における兄、街に蔓延する伝染病、救える人間を救っていきながら、主人公はこの世界の謎と秘密に迫る。専門家による査読が施された、本格ファンタジー医療小説。

 なろう小説ではかなり有名なはずだが、世間的な知名度はあまり高くない作品かもしれない。
 が、この世界で彼だけが持つ特殊能力、またこの世界で彼だけが持つ医学知識、そしてそれを下支えする作者の知識量、医者による監修・査読のハッタリが非常によく効いている(ネット小説でこんなのありかよとマジでビビった)。
 シナリオ全体としても、超絶特殊能力を持つ主人公の大立ち回りや、それでも襲い来る病気という人類最大の敵。とてもうまく成り立っていて、おまけ程度に世界観の謎もまあまあ面白くて、俺調べで最も面白いなろう小説の称号に恥じない。

 言及しておきたいのは、主人公の思考が「現地人」へのリスペクトに満ちていることだ。
 我々の常識からしたら、よくわからない薬草をゴリゴリすり潰して治療した気になっているファンタジー世界の住人など馬鹿丸出しだが、主人公は(この世界における)父親を筆頭に、未発達の科学と、神術と呼ばれる魔法の力でなんとか責任を持って患者を癒す、この世界の薬師に尊敬の念を抱き続ける。
 そういう姿勢を見ていると、彼もまた学究の徒なのだと思わされる。まるで比良坂竜二*5のように。


 なろう小説はWEBに公表される素人の小説であることからレベルの高い作品が限られる。また、ランキングやアクセス解析によって、人気がダイレクトに見えるシステムであるため、読者の欲望を露骨に反映した作品になりやすい。
 けれどそれはそれとして、面白い作品は存在する。小説はただそこに存在する。なろうであろうと、pixivであろうと、二次創作SSのしたらばだろうと、ただそこに存在するだけだ。
 今挙げた三つはまず外さない。まじで読もう。他が面白いかは知らない。つまらない小説もただそこに存在する。

*1:四部は好き

*2:いや、されて「いた」。今、インターネットにおいてエロゲの話を見ることはない。エロソシャゲの話はたまに見る

*3:クーラーを作る辺り

*4:そういえば「彼女、甘い彼女」のラストは期待がテーマの一文だった

*5:食事の席で腸内細菌フローラの話もできずに、よくも薬師の家系を名乗れたものだな!!